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大学病院では、毎日あちこちで、たんぽぽのようなお茶会が開かれている。それが委員会と呼ばれる会議で、そこにはいつも似たようなメンバーが集う。電子カルテ導入委員会もその一つで、俺はメンバーの一人だ。立ち上げ直後、電子カルテを導入するという基本方針が合意に至った。しかし具体的な細部の検討に入ると、鏡の表面のように波風ひとつ立たせない予定調和を目指す曳地委員長の決断力のなさが遺憾なく発揮され、物事は一向に進まない。 医療行為をすべてコンピューター入力するという労力に対する反発は大きい。しかし、電子カルテ導入の進捗が滞っている本当の理由は、「カルテは患者のものでなく医者のもの」という旧世代医師の時代錯誤的感覚の死守にある。それくらいのことは、みんなうすうす気づいている。誰もあえて口にしようとはしないけれど。 「そろそろ委員会の改選時期なのですが、田口先生に電子カルテ導入委員会の議長をお引き受けいただけないものか、と考えているんです」 俺が議長だったら、導入は確実に早くなるだろう。そのくらいの自信はある。 「それは交換条件ですか?」 「そう質問されたら、そんなことありません、とお答えしなければなりませんね。但し、そのお答えをした時には、この要請はなくなっているとは思いますが……」 これがご褒美か。しかも減点2はお目こぼしになるだろう。どうしようか。 一ヶ所逃げ道を作っておいて、そこに向かって追いつめる。孫子の兵法だ。わかっていてもどうしようもない。俺は肝をくくる。 「私に調べさせる以上、徹底的にやっちゃうかもしれませんよ」 「結構です」 「内緒で調べることはできません。当事者にはわかってしまします」 「それも結構です。引き受けてくださいますね」 「桐生先生には、病院長ご自信から事情を直接説明していただかないと先に進めません」 「そうおっしゃるだろうと思って、桐生君には研究室で待機してもらっています。すぐにお呼びしましょう」 |
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